はじめに

  
 私の一日は、生徒と一緒に、朝の公園で気功と太極拳を練習することから始まります。樹木に囲まれた公園は私たちにとって最適の青空道場です。
 
 公園の隅っこの木陰で、十数名の生徒と一緒に楽しく体を動かしていきます。

 「シェイク」と名づけた、全身をシンプルに揺するエクササイズや、この本に紹介してある鹿やサル、虎などそれぞれの動物の運動を、呼吸が乱れないほどのスピードで練習していきます。

 そうしてしばらく単純な動作を繰り返した後、動きを止めてただ静かに「站とう功」を行います。「站とう功」というのは、膝を曲げた形で、じっと立って行う動きのないエクササイズです。両手は胸の前でボールを抱えたようにして、そして目を閉じて体に注意を向けていきます。すると「気」が全身を包み、指の先にしびれるような感覚が生じてきます。

 体の内部に注意を向けると、何も動きがないのに、何かが体の中を巡っていきます。両手の指先がジンジンしてきます。「気」が体の内部を流れているのが感じ取れるのです。それは練習する私たちの誰もが体験することです。朝ほんの少し早起きをして公園で練習する私たちの楽しみです。

 トレーニングはそれほどハードなものは含まれていません。誰でも楽にできる運動です。しかし、このトレーニングを終わった後はいつも、不思議なほど体がパワフルになっています。

 そして体が十分ほぐれ、パワフルになって、簡化24式太極拳の練習になります。予備勢、起勢、左右野馬分ゾウ・・・と、注意深くゆっくり、リラックスして、太極拳の套路を練習していきます。

 太極拳はひとりで練習することができ、また、グループで楽しむことができます。人と競争する必要がありません。うまく動く必要もありません。ただ淡々と、昨日やったように今日も、そして今日と同じように明日も練習を継続していくのです。

 朝、公園に来るときは、たとえ少し遅刻しても、ゆっくり歩いて練習場所までたどり着きます。今年還暦を迎えたそんな私が、終わって生徒と別れた後は、全速力で、練習場所から公園の出口までの百メートルほどを、一気に走り切ることができるのです。


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